結局あの日、コンビニで色々買って笹木の部屋に向かったあと、泊まって朝帰りした。

『ハナコ、俺、まじで今日ショックだったんだぞ。お前に男ができたのかと思って』

『やだー、自慢じゃないけど、そんな夢のような話あるわけないよ。笹木くんこそ、彼女がいるんじゃないの?』

『いねぇーよ。いたらお前を呼んだりしない』

一生に一度の冒険のつもりだった。

『笹木くん、笹木くんを信用してお願いがあるの。私ね。そいうことしたことないの。多分これから先も。でも一生そのまま終わるのはちょっと寂しい。だから……』

ふり絞った勇気。
これから先、笹木に恋人ができてしまったら、もう二度と口が裂けても言えなくなる。

『一度だけでいいの』

そう言って頼んだのは自分なのだ。絶対に彼を巻き添えにはできなかった。

パパカツの意味はわからないけれど、たとえそれがなんだろうが、なんと言われようと甘んじようと思った。どうせあと二日の我慢だ。年末年始の休みに入れば、噂も一旦切れる。

――私は大丈夫……。

そう言い聞かせながら残った勤務時間の間、夢中で仕事に没頭した。
というよりも没頭しようとした。

でも、ぐさりと深く心に刺さった傷はそう簡単に治ってはくれない。

――嫌いなら、ただほっといてくれたらいいのに……。
どうして関心を持つの?

沈んだ心を抱えたまま暗い部屋に帰る気にはなれなかった。