解散したのは九時。
マフラーを目元付近まで持ち上げてみたけれど、冷たい空気が目に沁みた。
まっすぐ家に帰るのが惜しいような気がして、途中立ち止まり、大きなクリスマスツリーを見上げた。
どんなに恋しくても、タイミングが合わなければどうしようもないんだなぁ……。
映画の余韻が心に残り、そんなことを思いながら、
また切なさが込み上げた。
――マスター、本当に選択ミスだよ。切なさが止まらないじゃないか。
「ハナコ?」
――あっ。
振り返った先には、寒そうに背中を丸め、自転車を押している笹木がいた。
「もしかして、いま帰りなの?」
「そう、イブだから」
「なにそれ」
真顔で答える笹木がおもしろくて、思わずアハハと笑う。
「なんだ、お前デートじゃなかったのか」
「デート? 違うよ。ちょっとした映写会」
「映写会? ふぅん。なんだか今日はめかし込んでるから、まさかデートかと思って焦ったぞ」
「めかしこんでる?」
確かに今日はおろしたての薄いピンクのブラウスをスーツの中に着ている。
今夜のための、細やかなおめかしではあるけれど、ささやか過ぎて気づく人はいないと思っていた。
「ああ、しっかりな。ピンクなんか着てるし。めかしこんでるついでに、なぁ、飯付き合えよ。イブにひとり残業が気の毒だって思わないのか?」
「え? でも、もう九時だし、遅くなっちゃう」
「俺んちすぐそこだし、泊まって行けよ」
まるで、同性の友人にでも言うように、笹木はさらりと言った。
――え?
マフラーを目元付近まで持ち上げてみたけれど、冷たい空気が目に沁みた。
まっすぐ家に帰るのが惜しいような気がして、途中立ち止まり、大きなクリスマスツリーを見上げた。
どんなに恋しくても、タイミングが合わなければどうしようもないんだなぁ……。
映画の余韻が心に残り、そんなことを思いながら、
また切なさが込み上げた。
――マスター、本当に選択ミスだよ。切なさが止まらないじゃないか。
「ハナコ?」
――あっ。
振り返った先には、寒そうに背中を丸め、自転車を押している笹木がいた。
「もしかして、いま帰りなの?」
「そう、イブだから」
「なにそれ」
真顔で答える笹木がおもしろくて、思わずアハハと笑う。
「なんだ、お前デートじゃなかったのか」
「デート? 違うよ。ちょっとした映写会」
「映写会? ふぅん。なんだか今日はめかし込んでるから、まさかデートかと思って焦ったぞ」
「めかしこんでる?」
確かに今日はおろしたての薄いピンクのブラウスをスーツの中に着ている。
今夜のための、細やかなおめかしではあるけれど、ささやか過ぎて気づく人はいないと思っていた。
「ああ、しっかりな。ピンクなんか着てるし。めかしこんでるついでに、なぁ、飯付き合えよ。イブにひとり残業が気の毒だって思わないのか?」
「え? でも、もう九時だし、遅くなっちゃう」
「俺んちすぐそこだし、泊まって行けよ」
まるで、同性の友人にでも言うように、笹木はさらりと言った。
――え?