ところどころ小さな声で話をしている客もいるが、ほとんどの客はいつものように黙ったままだ。
それでも皆、幸せそうに口角をあげ目を細めて、スクリーンに目を向けている。

客同士が話をしたりしているのだろうかと想像して、その輪の中に入れるのだろうかと心配していたけれど、そんな心配は全くなかったということになる。

さすが大好きな『執事のシャルール』。
ますます好きになったと胸をキュンキュンさせながら、羽菜子もみんなと同じようにチャップリンを見つめた。

間もなく、ひとりずつワンプレートに盛り付けられた食事が、全てのカウンターとテーブル席に並べられた。

鶏もも肉のグリルをメインに、厚みのあるキッシュからはほうれん草やハムが顔を覗かせている。
たっぷりと掛けられたチーズがほんの少し焦げていて食欲をそそるのは、ココットに入ったグラタン、マリネにピクルスにローストビーフ。
本当に無料でいいのかと申し訳なくなる。

そうこうするうち、店内の照明が落とされた。

フットライトもあるし、料理の奥にはそれぞれガラスの中で揺れているろうそくの灯りがあるので、暗くなっても食事を続けるのに支障はない。

スクリーンにはチャップリンに代わって、別の映像が映し出される。

映画は外国の古い映画だった。

好きあう二人がすれ違い、大人になって再会するけれど……。
クリスマスとは関係ない、切なくて恋しい気持ちが胸に広がるラブストーリー。

最後は涙ボロボロになった。
客の半数以上を占める女性は皆、結構本気で泣いてしまっていたものだから、照明が明るくなると慌てて顔を隠し、恥ずかしそうに笑い合った。

マスターは「すみません、選択を誤りましたね」と恐縮しながら、それぞれに手土産のケーキをくれた。