そして他にもうひとり、若い男性のバーテンダーがいる。
若いバーテンのほうは学生のアルバイトかもしれない。同じ人ではなく、何人かが交代しているようだ。

特徴的なのは、そのバイトの若者もマスターも申し合わせたように静かな佇まいをしていて、客の注文を聞くなどの他は、余計なことはしゃべらないということ。
ついでに言うと、彼らはなぜこんな小さな店に?と不思議に思うくらい、揃ってイケメンだった。


羽菜子はいつものように奥へと進み、カウンターがちょうどカーブを描いているあたりの席に腰をおろした。

頼むメニューはいつも同じ。

「おまかせディナーをお願いします」

変わらぬ注文に、マスターもまた同じように答える。

「かしこまりました」


レストランバーという割には店のメニューは少ない。
食事となると『おまかせディナー 千五百円』という一種類しかなかった。

しかも、大変申し訳ありませんがという腰の低い前置きと共に、アレルギーや好き嫌いがある方には対応致しかねますという注意書きが付いていて、何が出てくるのかは、聞かないとわからない。

アルコールやチーズの種類は豊富なのに、料理となると客に選択の余地を与えないという一風変わった店である。