定時でオフィスを出た帰り道。
道なりに十分ほど歩き、左に曲がった路地裏に何軒か飲食店が並んでいる。その真ん中あたりにあるオレンジ色の明かりが漏れる店。

『執事のシャルール』

今から五年前。
ぼんやりと歩いていて迷い込んだ路地裏で、偶然見つけたレストランバーだ。

金曜日だったと思う。
ちょうど今頃の年末で、街はクリスマスの装飾に彩られてキラキラして、忘年会とかパーティとか、道行く人々はなんだか浮かれているような夜だった。

なにか嫌なことがあったわけじゃなかったと思う。

仕事を終えて通りに出た時には、落ち込んでいたわけでもなかったし、多分、今日の夕ご飯は何を作ろうかなぁとかそんなことを考えていただろう。
それが羽菜子の日常だったから。

でも歩いているうちに、道行く人々のちょっとした笑顔とか楽しそうな話声に追い詰められていくような、そんな感じがして、
気がついた時には、とてつもない寂しさとか、やるせなさで心が一杯になっていた。


誰か、私のことをギュッと抱きしめてくれませんか。

優しく、愛してるよって囁いてくれませんか。

そんなこを紙に書いて、街角に立ったら、誰か、誰か優しい人が拾ってくれるかな?

そんなできもしないことを考えた。

メイン通りのイルミネーションが眩しすぎるのがいけないんだと、避けるように路地裏に入った。

暗い通りにホッとして肩を落とすと、ぼんやりとオレンジ色の灯りが見えて。
カウンターにはひとりで座っている女性や男性がポツリ、ポツリといて、何か美味しそうに食べていた。