「まずはドングリの殻を剥かなくちゃね」
昼食前に祖母は、塩水を張った大きなボールにドングリを漬けておいた。そこから浮いてきたものを取り除き、残りをザルに上げる。
俺がペンチで殻にひびを入れ、それを弥生ちゃんとばあちゃんがひたすら剥く。
延々と続くかと思われた作業がようやく終わった頃には、みんな手が痺れるほどくたくたになっていた。
剥いた実をミルにかける。するとあっという間に、山盛りだったドングリは、がっかりするほど少ない粉末になってしまった。
ここからは、通常のシフォンケーキの作り方とほぼ同じ。コツは卵白をしっかり泡立てること! ……これが地味にキツい。
親父にハンドミキサーを借りてこようとしたら、祖母にペしりと手を叩かれた。
「卵白の泡立ては、ケーキ職人の基本!」
って、俺、違うし。だけど逆らえるはずもなく。殻剥きで疲労した腕をさらに酷使し、意地になって泡立て器を振り回すことになった。
先に別のボールで卵黄、砂糖、サラダ油などを丁寧に混ぜ合わせておく。ここで、さっき俊哉にもらった豆乳が役に立った。牛乳の代わりにすればヘルシーにできる。
「失敗するといけないから、今回はほんの少しだけベーキングパウダーを使おうね」
祖母の指示に従い、まとめて篩にかけた粉類を少しずつ混ぜ滑らかにしていく。この辺の作業は比較的簡単なので、弥生ちゃんにも存分に手伝ってもらった。
そこへ俺が身を粉にしてツヤツヤの角がピンっと立つまで泡立てたメレンゲを、数回に分けて混ぜる。泡を消さないように慎重に。
それを型に流し込んだら、あとはオーブンにお任せ。オレンジ色に光る庫内を、弥生ちゃんと祈りながら熱い視線で見守っていた。
生地がモコモコと型からはみ出るくらいに膨らめば、自然と拍手喝采が上がる。
待ちくたびれたチンという音に顔を見合わせてそっと扉を開けると、熱気とともに香ばしい匂いがふわりと立ち上った。