結弦が「こんにちはー」と笑顔で挨拶をしながら中へ入っていく。


「みなさんいらっしゃい。よく来てくれたわね」


 玄関をくぐると、老齢の男女が出迎えてくれた。


「ばあちゃん、久しぶり。元気そうだね」


 この人が結弦のお祖母さんか。ちゃんとしたとこを見せなくちゃと、軽く咳払いをして背筋を伸ばした。


「ええ、結弦も元気そうね。遠くて疲れちゃったでしょう。二階の奥に二部屋用意してあるから、そこ使ってね」

「ありがと。じいちゃんも久しぶり。これおみやげだよ」


 結弦は持っていた紙袋から包みを取り出して手渡した。見たところお酒のようだけれど、さすが結弦だ。おみやげもちゃんと用意していたんだな。


「わざわざありがとう結弦。事故もたいしたことなくてよかったな」

「うん、おかげで遅れちゃったけどね」


 結弦のお祖父さんとお祖母さんは、大幅に遅れてしまったわたし達を優しく迎えてくれた。


 それぞれ「お邪魔します」や「お世話になります」と軽い挨拶を交わし、靴を脱いで上がらせてもらう。


「紹介するよ。高校の友達で、時永怜と巡里美輝さん。こっちは彼女の神谷琴音さんだよ」


 か、彼女! そんなふうに紹介されるなんて思っていなかった。完全に不意打ちだ。

 ぺこりと頭を下げたふたりに倣って、わたしも慌てて頭を下げた。


「琴音、赤くなってるじゃん」

「ちょっと、美輝! 変なこと言わないで!」


 美輝のいじわるに頬が熱を帯びていき、恥ずかしくて顔がどんどん下を向く。


「あらあら、初々しくて羨ましいわねえ」


 結弦のお祖母さんがころころと笑っている。いくつになっても仲のよさそうなこの夫婦のほうが、わたしには羨ましく思えるのだけれど。


「みんな疲れてるだろう。食事の準備をしておくから、先にお風呂に入ってくるといい」

「ありがとう、じいちゃん。じゃあ、ひとまず荷物を置きに部屋へいこう」