「あの角を曲がれば、もうすぐだ」


 結弦の言葉に胸が高鳴る。どんな旅館なんだろう。
 疲れたはずの足取りが徐々に軽くなっていく。

 空はうっすらと茜色に染まり始めていた。心なしか潮の香りがさっきより強くなっている気がする。


「みんな、お疲れ様。ここがじいさんの旅館だよ」


 一見すると古くて趣のある大きな建物。だけど改装を重ねているのか、窓や外壁など、ところどころが新しくなっている。

 敷地内に入ると、小さいけれど池もあって、立派な中庭が広がっていた。


 もっとこじんまりとした宿を想像していたのに、ほんとにこんなとこに泊まらせてもらっていいのだろうか?