「脱サラして店持つとか、すげえよな」


 怜がグラスの水をくいっとのどの奥へ流し込んで言った。


「琴音、さっき言ってたのってさ、あれじゃない? へじゃぶってやつ」

「それを言うならデジャヴだろ? 既視感な」


 美輝の恥ずかしい間違いを怜が淡々と正した。若干頬を膨らませた美輝は、目を細めて怜を睨みつけている。


「そう……かも。だってわたし、実際にはここに来たことなんてないし」

「へえ、本当にそんなことあるんだな、すげえわ」


 興味があるのかないのか、怜は終始あっけらかんとしていた。


 しばらくして、いい匂いが徐々に店内を満たしていき、美輝の頬が期待の色を帯びていく。


「先にオムカレーふたつ、お待たせしました」

「うわぁ! おいしそう!」


 目の前に置かれたオムカレーを見て、美輝が歓声をあげる。
 美輝の笑顔は太陽みたいだ。きらきらと眩しいほどの笑顔は、わたしを明るい気持ちにさせてくれる。


「あとのふたつも、すぐにお持ちしますね」


 店員さんはそう言って奥に戻ると、またすぐに、カツが乗ったオムライスとカレーライスをお盆に載せて持ってきてくれた。