どう考えても一方的にぶつけられただけなのに、文句ひとつ言わず乗客のことを考えて行動してくれている運転手さんに、わたしは胸を打たれた。
こんなにも責任感を持って仕事をしている姿に、尊敬と感謝の念が芽生える。
「ちょっと俺、じいちゃんに連絡してくるよ」
結弦がそう言い残し、バスから降りた。
「俺達も少し外の空気でも吸うか、琴音もそのほうがいいだろう?」
怜の意見に賛成し、運転手さんに声を掛けてからわたし達もバスを降りる。
「それにしても、琴音はどうしてバスが事故に遭うってわかったんだ? 夢でも見たのか?」
夢? そうなのかな。
でも誰も怪我しなかったんだから、もう夢でもなんでもいい。
「うん、まあ……そんなとこかな。ごめんね、さっきは取り乱しちゃって」
とにかく無事でよかった。それだけだ。
「でもさ、琴音から聞いて、結弦が運転手さんに伝えてくれたから、この程度で済んだのかもしれないよ? そう考えたら琴音のおかげだよね」
美輝も、どこかほっとしたような口調だ。
電話を終えた結弦が戻ってくると、それからは学校のことや部活のこと、進路のことなどでしばらく談笑した。