しかしわたしの頼りない警戒も空しく、バスはその場で静かに停車した。


「みなさん! 大丈夫ですかっ!? お怪我はありませんか!」


 運転手さんが慌てて立ち上がり、客席を見渡して叫んでいる。

 全身の震えが止まらない。

 放心しているわたしに、美輝が声をかけてくれる。


「琴音、大丈夫? びっくりしたね。まさか本当に事故に遭うなんて……」

「ふたりとも大丈夫か?」


 後ろから顔を覗かせる結弦と怜。ふたりもどうやら無事のようだ。


「本当に事故が起きるなんてな。でも、たいしたことなくてよかったじゃねえの」


 怜も少し驚いた様子だが、誰も怪我ひとつない状況に安心しているらしい。

 けれどわたしは、今起きたことへの理解がまるで追いつかない。

 記憶ではバスごとダム湖へと転落したはずだ。でも、バスは転落どころか横転もしていない。

 一方的にぶつけられて、ただ平穏に停車しただけと言われても間違いではない。それくらい、たいしたことにはなっていない。