言いようのない不安が胸に広がる。
 本当は今すぐバスをとめてほしいけれど、わたし自身、事故に遭ったということ自体、夢じゃないのかと言われると自信が持てなくなっていた。

 時間が戻るなんてありえない。そんなことわかっている。だとしたら、妙にリアルな夢を見ていたと思うほうが妥当だ。

 だって、今は二〇二二年七月十六日なのだから。それは紛れも無い事実だ。そして、これが現実なのだとしたら、やっぱり今までのことは夢だったのかもしれないし、その考えは否定できない。

 どちらかと言えば、時間が戻ることのほうがよっぽど信じられない。


「……わかった。ごめん、取り乱すようなことして」


 怖いけれど、これ以上迷惑をかけるわけにもいかない。
 現に今、高校三年生のわたし達がこうして生きている。事故は起こっていないのだ。
 これから起きることをわたしだけが知っているなんてことも、冷静になるとありえない。

 それに、現状他にできることはない。むりやりバスをとめようとしても、成功する見込みは薄い。だとしたら、あれは夢だと自分に言い聞かせるしかない。

 顔を上げておずおずと美輝を見ると、美輝は「大丈夫」と言わんばかりの満面の笑みをわたしに見せてくれた。



 手の震えは、やがておさまっていった。