「あの……旅行って?」

「ははっ、まだ寝ぼけてるの? 今日から三日間、俺のじいさんがやってる温泉旅館に行くんだよ。ずっと前からみんなで決めてたじゃないか」


 笑って説明してくれる結弦。でも、わたしは笑えない。


「とりあえず、水飲んで落ち着きなよ」


 美輝に促され、「ありがとう……」と絞り出すように呟いて水筒を受け取る。

 間違いない。ここは七年前事故に遭ったバスの中だ。

 おぼつかない手で蓋を開けて、冷たい水を少しずつ喉の奥へ流し込むと、徐々に冷えていく頭の中で突拍子もない考えに辿り着いた。


 ――まさか、時間が戻ったの?


 水筒を包み込んでいる両手が、微かに震えている。


「きっと慣れない旅で疲れたんだよ。結弦、ちょっと席代わって」


 美輝はそう言うと、後ろの座席から立ち上がって通路へ出る。


「琴音、ちょっと前ごめんね」


 結弦もわたしの膝をするりとかわして通路へ出ると、美輝の席に座った。