意識を高校生にタイムスリップさせて思い出を噛み締めていると、「おかあさん、したくできたよ!」と遙さんを呼ぶ翔太くんの声が、わたしの五感を現実へと引き戻した。


「はーい、すぐ行くよ!」


 遙さんは翔太くんに返事をすると、くるりとこちらを向いて言った。


「琴音さん、なにも聞いてあげられなくてごめんなさいね。次のバスで行くの?」

「はい、そのつもりです。わたしにかまわず、翔太くんのところに行ってあげてください」

「ありがとう。じゃあ、ゆっくりしていってね」

「こちらこそ、ありがとうございます。お言葉に甘えて、そうさせていただきます」


 遥さんは軽く会釈をして奥へ戻ると、すぐに翔太くんの手を引いて店から出て行った。

 若いおばあちゃんはカウンターでパソコン作業をしているらしく、わたしは再び思い出を噛み締めるように、ゆっくりとオムカレーを堪能した。