「死者が奇跡を起こしたあとは、雨も降っていないのに突然虹が架かるのよ」


 奇跡のあとに架かる虹。

 そういえば七年前、わたしがダム湖へと沈んで意識を失くす間際に、七色の光を見た。

 でも、父親を亡くしてしまった遥さんにこの事実は言えない。

 次の言葉に悩んでいると、沈黙を破るいい匂いが店内に満ちてきた。

 続いて若いおばあちゃんが、オムカレーとコーヒーを載せたお盆を持って奥から姿を見せた。


「お待たせ。あら、遙。どうしたの?」

「慰霊碑に行くみたいだから、ちょっとお話してたのよ」

「そうだったのね。それならお仏壇のお父さんにも見守っておくよう伝えておかなくちゃね」

「ありがとうございます。現地に着いたら、わたしも御主人にご挨拶してきますね」


 本当に優しい家族だ。
 心配をかけてしまったことが申しわけない。


「遙もコーヒー飲む?」

「ううん、わたしはもう行くから。琴音さん、無理しないでね。助かったからなんて、あなたが気に病む必要はないのよ」

「ありがとうございます。わたしは大丈夫です。じゃあ、せっかくなので熱いうちにいただきますね」


 そう言って手を合わせてからオムカレーをスプーンですくい、口に運んだ。