しばらくしてバスがカーブをゆっくりと抜けると、視界に大きな湖が広がりその光景に思わず息を呑んだ。

 山々の間を縫うように貯め込まれた水は人工的なダム湖とは思えないくらい雄大に広がっていて、静まり返った水面はなんでも飲み込んでしまう大穴のようにも見える。

 虹という明るい響きとは裏腹に、その湖面からはどこか物悲しい雰囲気が漂っていた。

 七色ダムの名称由来は不明だが、わたしにはどうしてもこの湖から虹色の輝きは感じ取れない。

 流れもなくまるでコールタールのように固まったかのような水面をじっと見つめていると、ぶるっと身震いがしてくる。

 どれくらい深いんだろう? 落ちたら溺れちゃうかな。


『ほら、あそこにボートハウスがあるだろ? あそこからボートに乗って釣りに出るんだよ』


 結弦が指差す先には、ちらほらとボートの姿が見えていた。

 崖下では小型ボートにひとりで乗り込んだ男性が、湖面に釣糸を垂れている。

 遠くには波を立てて走っているモーターボートも確認できたが、そちらもひとりだ。

 こんなところにひとりぼっちで釣りに来るなんて、わたしには到底真似できない。水中から得体のしれない巨大生物が口を開けて飛び出してきて、水の中へと引きずり込まれそうだ。