――淡々と、車輪が線路を掴む音が響く。


 懐かしい思い出に浸っているうちに電車はビル街から遠く離れて、のどかな風景の中を走っていた。

 さらにそのまま一時間ほど電車に揺られると、小さいけれどいくつかのホームがある駅に着き、乗り換えのためにそこで電車を降りた。

 吹き抜ける爽やかな風にざわめく木々の音。酸素が濃厚で芳醇な空気を肺いっぱいに取り込むと、思わず吐息が漏れた。

 ここからはローカル線となるため、 次の電車まではまだ三十分以上もある。

 ホームの適当なベンチに腰かけると、どこから来たのか黒猫が突然その姿を現した。


「ナーオ」


 人に慣れているのだろう。怖がる様子もなくわたしをじっと見据えている。

「おいで」と手を出すと、その手をひらりと避けて、わたしが腰かけるベンチへと飛び乗ってきた。


「どうしたの? お腹空いた? あいにくごはんは持ってないの。ごめんね」


 お腹が空いているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。


「ナーオ、ナーオ!」


 じっとわたしを見つめる黒猫の鳴き声が、段々と大きくなってくる。その目は狩りや物乞いをする目ではなく、わたしになにかを訴えているようにも見えた。