ほっとしてまた名簿に目を落とすと、今度は男子生徒がわたしの席の前で足を止めた。
『あ、やっぱりここだ。ごめん、ここ俺の席なんだよね。神谷さんはひとつ前だよ』
『え? す、すみません! わたし、間違えて……痛っ!』
慌てて立ち上がったおかげで、机の角に膝をおもいきりぶつけてしまった。
『だ、大丈夫? 慌てなくていいから。急に声かけちゃってごめんね』
痛む膝をさすりながら、『すみません』と何度も頭を下げる。
『タオル濡らしてくるから、そこに座ってて!』
どうやらわたしは席をひとつ飛ばして座っていたらしい。
名簿を見ると、彼の名前は切継結弦だということがわかった。
いきなりクラスメイトに迷惑をかけてしまった申しわけなさと恥ずかしさにため息を落とすと、切継くんが濡らしたタオルを持って戻ってきた。
『はい、これ膝に当てて』
春風のように爽やかな笑顔。
茶色く映える髪に端正な顔立ち。
彼の優しさを象徴するような大きくて垂れ気味の瞳に、つい見とれてしまう。
口ごもりながら『ありがとう』と伝え、冷たいタオルを受け取って膝にあてた。
ひんやりとした感覚が鈍い痛みを少しずつ和らげていくのに反して、わたしの胸はどんどん熱を帯びていくのを感じていた……。
――これを機に結弦はよく話しかけてくれるようになり、それからしばらくしてわたし達は付き合うことになった。
そして、わたしの恋愛相談相手だった美輝。
友達ができるか不安だったわたしに一番に話しかけてくれた美輝は、休み時間もしょっちゅう一緒にいてくれて、なんでも話せる親友になっていた。