病院から出ると、空は晴れ間を覗かせていた。
「雨……やんだんだ」
雨上がりの雫を纏う町は再び現れた太陽に照らされて、夜のネオンとは違った爽やかな煌めきに包まれていた。空を見上げると、ビルの向こうに大きな虹が架かっている。
きれい……。
久しぶりに虹を見たからか、まるで連想ゲームのようにバス事故の記憶が甦った。
七年前にバスの中で交わした、結弦との会話を思い出す。
そういえばあの湖、七色狭とか七色ダムとか言ってたっけ? 結弦は見応えがあるって言っていたけれど、美輝は興味なさそうだったな。
「行って、みようかな……」
エントランスの屋根から、雫が垂れていくのを目で追いながらひとりごちた。
事故のあと、現場付近には献花台が設けられていた。
わたしは入院中もマスコミから、『献花にはいつ行くのか?』など何度も無神経に問いかけられたが、結局献花に行くことはなかった。
しばらくして事故現場には慰霊碑が建てられたが、わたしはバスごと転落した七色ダムが怖くて、一度も訪れたことはない。
振り返って結弦の病室を見上げる。
「さようなら……」
震える声でそう呟くと、わたしは病院に背を向けて歩き始めた。