「結弦を無駄死になんてさせない!」


 そうだ、全部選ぶなんてできない。

 わたしが自分勝手に命を粗末にしてしまったせいで、こんなことになったんだ。

 今更それを悔やんでも、今起きていることを変えることはできないんだから。

 だったらせめて、最後くらいみんなが望んだ結末にしなくちゃ。でなきゃ誰も救われない。

 結弦が命を削ってまで連れていってくれたみんなとの旅。

 それは決して無駄なんかじゃなかった。

 誰かのために、自分のために強くなると決めた。

 その決意がきっと今試されている。

 言葉が詰まる。

 涙と嗚咽が邪魔をする。

 でも――、

 ここで言わなきゃ誰も救われないし、救えない。

 ただ後悔が残るだけだ。

 だからみんなが見てる今ここで、その約束を口にするんだ!

 喉の奥につっかえている言葉を、なんとかみんなに届くように叫んだ。


「や、約束する……!」


 もっと、もっと大きな声で!


「わたし……強くなる! みんなの分も、これからは幸せに生きていく! 絶対そうなるように約束する!」


 ――言えた!

 結弦のために、みんなのために。

 涙で視界は歪んでいる。
 だけど、それでもわたしは、その約束をちゃんと口にすることができた。

 顔を拭って、結弦を見つめる。


「ありがとう、琴音。……好きだよ。そんな琴音が、ずっと大好きだったんだ……」


 希薄になっていく結弦は、淡く光る涙を流して笑っている。


「わたしも結弦が好き! これからもずっと大好き! 結弦のこと、絶対に忘れない!」


 喉が裂けるくらい、声を張り上げて叫んだ。

 伝えたいことはまだまだあるのに、結弦の体はどんどん透けていく。

 存在が消えてしまう瞬間が、もうすぐそこまで迫っている。

 ちゃんと言わなきゃ。伝えなきゃ。

 これが本当に最後なんだから。

 もう、結弦には会えなくなってしまうのだから。

 神様なんていない。宇宙に嫌われるとかどうでもいい。歴史なんて知ったことか!

 わたしが忘れさえしなければ、きっと結弦の存在はなくならない。

 なにが正しいかなんてわからないけれど、わたしはそう信じてる。

 そうすればいつか、たとえ遠い未来でもまた巡り会える。

 今一番大切なのは、結弦を忘れないと信じる心だ。

 そのためにも精一杯、結弦へ伝えよう。

 結弦が教えてくれたこの言葉のぬくもりを、最後にわたしから届けよう。


「ありがとう! 結弦!」


 ――わたしと、出会ってくれて。

 ――わたしに、優しさをくれて。

 ――わたしに、ぬくもりをくれて。

 ――わたしに、輝きをくれて。

 ――わたしに、思い出をくれて。

 ――わたしを、愛してくれて。

 ――そしてわたしに、命をくれて……。


 最後に贈る、七つのありがとう。
 それが結弦の勇気になるよう、願いを込めて届けよう。

 結弦からもらったもの。

 それは全部、強さだったんだね。

 これだけあるなら、もう大丈夫だよ。

 だから、きっとまた会おうね。

 わたしは決して、あなたを忘れたりしないから。

 生まれ変わっても、絶対あなたと巡り会ってみせるから。

 そうしたらまた、わたしと一緒にいてね。

 おじいちゃんとおばあちゃんになっても、ずっと一緒にいようね。

 今度こそ誰にも負けないくらい、たくさん幸せになろうね。

 いつか迎える最期のときまで、ずっと手をつないで、どこまでも歩いていこうね。

 それまで、ほんのちょっぴりお別れだね。

 結弦は、最後に微笑んで言った。


「琴音……。遠い未来で、きっと……また……」


 眩い七色の光が辺りを包んでいく。

 霞み消えていく結弦の後ろで、景色と共に遠くに離れていく美輝と怜が、わたしに笑顔で手を振っている。

 もう片方の手は、互いに固く繋がれていた。

 美輝、怜、本当にお別れなんだね。

 離れていくふたりから見えるように、笑顔で大きく手を振った。

 美輝と怜も見えなくなり、七色の光はどんどん白い闇に覆われていき、わたしはまた目を閉じた……。