旅館に戻ると、物音を立てないように注意して部屋に入った。
眠っている美輝を起こさないよう静かに帰り支度を済ませ、書き置きを残して部屋を出た。
一階からは話し声や微かな足音が聞こえる。
誰かに見つかったらどう言いわけしようかと考えていたけれど、誰にも気づかれずに旅館から出ることができた。
夏祭りで取ってもらったヨーヨーは、窓際にぶら下げたまま持ってこなかった。
これから色をつけていくというのはこういうことだったのかと思うと、持ってくる気になんてなれない。
宿から少し離れた場所で立ち止まり、帰る方法を調べてみたが、田舎の始発がそんなに早い時間にあるはずもない。
スマホの電源を切り、行き場をなくしてあてもなく彷徨っていると、昨日来た駄菓子屋にふらりと辿り着いた。
首元のトンボ玉にそっと触れると、冷たいガラスの感触が伝う。
これの元の持ち主である葵ちゃんは、『その時がきたら会いにいく』と言った。
あれはこのことを暗示していたのだろうか? だとしたらちょっと悔しい……。