スマホの電源を切り、そのまま病院へと足を向ける。
結弦に会いたい。顔が見たい。
この気持ちを今、結弦に聞いてほしい。
やまない大雨の中、びしょ濡れのまま病院へ入り結弦の病室の前まで行くと、いつものようにノックをしてからスライドドアに手をかけた。
「はい」
えっ? 今の返事……誰? まさか……結弦?
聞き覚えがあるような男性の声に、スライドドアを開ける手がとまる。
「どうぞ?」
声の主が中に入るよう促してくる。
雨に濡れて冷えた体を強張らせて、ゆっくりとスライドドアを開けた。
病室に足を踏み入れると、結弦のベッドの脇に座っている男性に「こんにちは」と声をかけられた。
わかってはいたけれど、声の主はやはり結弦ではない。
よく通る声。一見若いがところどころ白髪混じりのこの男性には見覚えがある。結弦のお父さんだ。
日曜日は仕事があるため、平日にしかお見舞いに来れないと結弦のお母さんから聞いていた。
だからこれまでも結弦のお父さんとはあまり話をしたことはなかった。
お盆やお正月といった長期連休になるとたまに顔を合わせることはあったが、病室のドア越しで判断できるほど聞き慣れた声ではない。