「なんだこいつ、現金な奴だな」
怜が結弦の腕の中で丸まっている黒猫にちょっかいをかける。黒猫はそれを鬱陶しそうに前足で払っていた。
「じゃあなにから食べる? 結弦は両手塞がってるし、琴音に食べさせてもらいなよ」
な、なにを言ってるんだろう美輝は。そんな恥ずかしいこと、できるわけがない。
「結弦、ちゃんと猫降ろして自分で食べなよ。ウェットティッシュ持ってきてるから」
黒猫に向かって、「はいはい、怖いお姉ちゃんですねー」と笑いながら返事をする結弦に軽い咳払いで諭してみたが、本当にわかっているのだろうか?
「じゃあ、まずは串焼きな。これなら結弦も食べやすいだろ」
怜が牛串焼きを二本取り出して、わたしに差し出す。
なんで二本ともわたしなんだと思うけれど、元はと言えばわたしに懐いてしまった猫を引き離してくれたんだから、これくらいしてあげなくちゃという気持ちもある。
ひとつため息を落としてから、「はいっ」と牛串焼きを結弦の口元に差し出す。結弦は照れもせずに、「ありがとう」と言って牛肉めがけてがぶりと食らいついた。
「うん、うまい。お祭りの串焼きってほんとうまいよな」
少年のように口をもしゃもしゃと動かしながら食べる結弦がかわいくて、食べさせてあげてよかったと思うのだから、ちょろいやつだ、わたしは。
わたしも違う手に持っていた牛串焼きのお肉めがけてかぶりついたが、顎が外れてしまうんじゃないかと思うほどの肉厚で、思わず口いっぱいにお肉を頬張ってしまった。
「おぉ、琴音にしては見事な食いっぷりだな」
もごもごと顎を動かしているわたしを見ながら、怜が感心したような声をあげる。
「琴音って意外と豪快だね。わたしそこまで入んないかも」
いつだってわたしよりも豪快でフランクな美輝さえも驚くなんて、どれほどなんだろう? でも不思議と恥ずかしいとは思わず、むしろこの状況を楽しんでいるわたしがいる。
口の中の牛肉をやっつけて、なんとか喉の奥へと押しやると、すかさず美輝がわたしにオレンジジュースを手渡してくれた。
それをぷはっと飲むと、一斉に笑い声が飛び出した。
「あははははっ! 琴音、なんか変わったねえ」
美輝はお腹に手を当てて笑っている。
そんなにおかしいことしたかな? そう思うとなんだかわたしも笑いが込み上げてきて、堪え切れずにふはっと吹き出した。
なんだかわからないけれど、とても楽しい。
この四人でいると、なんでもないようなことでも笑顔になれる魔法にかかるのかもしれない。