結弦が取ってくれたのは、色のない透明なヨーヨー。あるのはほんの少しの模様だけ。
「琴音の人生はまだまだずっと長いからね。これから好きな色で飾りつけていくんだ」
みんなの人生だって長いはずなのに、これは進路がきちんと定まっていないわたしへの、結弦なりの応援だろうか。
まったく予想していなかった透明に戸惑いながら、「ありがとう」と言ってわたしもヨーヨーを受け取る。
次に結弦が桶へと針を垂らした瞬間、三つのヨーヨーの重みに耐えてきた糸がぷつんと切れた。
「おっと、しまった。三つでも厳しいかなと思ったけど、やっぱり四つは無理だったか」
頭を掻きながら舌を出して笑う結弦。そこに怜が「じゃ、交代な」と言ってお金を払い、釣り針を手にして桶の前にしゃがみ込んだ。
「怜、頼むよ。結弦の分、頑張って取ってね」
美輝は怜の肩に手を置いて、その危うい手つきを見守っている。
怜がいつになく真剣な目つきでヨーヨーを追う。それを桶の中からアヒルのおもちゃが睨み返しているように見えるのは、きっと怜だからだ。
「よっしゃあ、かかった!」
「まだだよ! 乱暴にしないで!」
美輝の一喝で慎重さを取り戻した怜がゆっくりと釣り針を上げると、桶の中から黄色と淡い緑が混ざったヨーヨーが浮き上がった。
「ほら、結弦。これがお前のだ。お前は常にみんなに気を配ってて、なんつーか癒し系だからな。だからなんとなく新緑っぽいその色だ」
差し出されたヨーヨーを「ありがとう」と言って受け取る結弦の横顔は、嬉しそうに微笑んでいた。
「コツも掴んだし、もういっこ取るかあ」
怜は再び桶の中に針を入れると、本当にコツを掴んだのか、いとも簡単に次のヨーヨーを釣り上げてしまう。
それは紺色と水色が混ざった青いヨーヨーだった。
「これは誰のなの?」
首を傾げて訊ねる美輝に、怜が即答する。
「これは葵のだ。あいつ急に怖い話したりするから、涼しそうな色にしてみた。ま、今はとりあえず琴音が持っとけよ」
そう言うと怜は、葵ちゃんのヨーヨーをわたしに差し出した。
結弦も一度しか会っていない葵ちゃんを怜が気にかけてくれたことが嬉しいのか、その表情は優しい。
怜が次だと言って釣り針を桶に垂らしていくと、掛けてもいないのに途中で糸が切れてしまい、ヨーヨー釣りはそこで終了となった。