フロントの前で長谷川さんに声をかけると、長谷川さんもわたし達の浴衣姿を盛大に褒めてくれた。
部屋に戻って財布とスマホを巾着に入れ換える。
貸してもらった下駄もぴったりで、履き心地も申し分ない。
準備を終えると結弦へメールを送った。
【準備できたよ】
【了解。じゃあ出かけようか】
障子を開けて廊下に出ると、ほぼ同じタイミングで男子ふたりが部屋から出てきた。と、同時にその動きが止まる。
「ふたりとも、どうしたの?」
首を傾げて訊ねると、結弦は少し頬を紅らめて答えた。
「琴音、その……浴衣、すごく似合ってるよ。蝶の柄がトンボ玉とお揃いだね」
思いもよらない結弦の反応に、胸がとくんと甘い音を立てる。
「ありがと。結弦も、あの……かっこいいよ」
結弦もお祖父さんに用意してもらったのか、紺色の浴衣に着替えていた。
怜もグレーの浴衣に着替えている。ふたりとも背が高いし、水泳で鍛えた体には浴衣もよく似合う。
「へえ、怜も似合ってんじゃん。意外ね」
美輝も怜を褒めると、「わたしは?」と浴衣をひらひらさせる。
「まあ……馬子にも衣裳じゃねえの」
「ちょっとどういう意味よ。似合うなら似合うってハッキリ言いなさいよ」
美輝が怜のほっぺをぎゅうぎゅう引っ張って、その頬が少し紅くなっている。それでも怜はそっぽを向いて、知らん顔を演じ続けていた。
冗談を交わしながら階段を下りると、わたし達は夏祭りが開かれている海岸へ向かって歩き始めた。