「琴音、すっごい美人だよ! 浴衣とっても似合ってる」


 美輝の声で現実に引き戻された。いつのまにか美輝の着付けも終わっていたらしい。


「美輝こそすごくかわいいよ。モデルさんみたい」


 そう美輝に返すと、千佳さんが「ふたりともきれいよ」と言ってくれた。


「本当によく似合ってるわねぇ。そうだわ、写真を撮ってあげましょうか」


 結弦のお祖母さんはそう言って部屋を出ると、すぐに古いポラロイドカメラを持って戻って来た。それを見た千佳さんが慌てたように声をあげる。


「お母さん、それちゃんと使えるの? スマホで撮ってあげたらいいのに」

「いいのよ……これでいいの。これなら、きっと未来でも色褪せないわ」

「……お母さん」


 確かにスマホのデータはいつ失われてもおかしくはない。現物のほうが色褪せないとは、きっとそういうことなのだろう。それに最近は昭和ブームとかで古いカメラが流行ってもいるし。


「さあ、二人ともそこに並んで」


 床の間の前に立ち、着慣れない浴衣に緊張しながら美輝と顔を見合わせて笑い、カメラに笑顔を向ける。


「じゃあ、撮るわね」


 シャッターを切る音が部屋に響くと、カメラから一枚の写真が印刷されて出てきた。


「しばらくするとちゃんと写るから、あとで見てみてね」


 差し出された写真を、お礼を言って受け取る。まだはっきりと現像はされておらず、印刷面は真っ白だった。

 浴衣姿のわたし達はどんなふうに写っているんだろう。仕上りが楽しみだ。


「これ下駄と巾着ね。お祭り楽しんできてね」


 下駄のみならず巾着まで用意してくれるなんて、言葉にならない。美輝も「すてき……」とひとりごとのように呟いていた。


「本当になにからなにまでありがとうございます。下駄も巾着もとてもかわいいです」

「そんなに気を遣わなくていいのよ、琴音ちゃん」


 千佳さんはなんだかほんとにお母さんみたいだ。
 もう一度お礼と行ってきますを告げて、わたし達は部屋をあとにした。