浴場では親子連れが一組と大学生くらいの三人組グループがお風呂を楽しんでいた。
洗い場で髪と体を洗い、露天風呂へと移動する。
端の空きスペースに美輝と肩を並べてお湯に浸かった。
大学生らしきグループの話し声が聞こえてくる。
「今日花火も上がるんでしょ? 田舎なのにすごいよね」
「ごはんの時間早めてもらってよかったね。丁度花火の時間くらいにお祭りに行けるよ」
「わたしこの旅館気にいっちゃった! 昨日のごはんもおいしかったし、毎年来ようよ」
結弦の生まれ育った場所や、お祖父さんの旅館を褒めてくれていて、わたしまで嬉しい。
美輝も、「琴音、よかったね」と言ってくれた。声は出さずに笑顔で頷くと、美輝はそのまま話し続けた。
「わたしが結弦の彼女だったら、ここで働くのもいいかなとか思っちゃうなあ。海も山も近いし」
美輝が仲居さんか。美輝は美人だから、とても似合うと思う。
「でも田舎だよ? 美輝は都会が好きなんじゃないの?」
「わたしどっちかっていうと田舎派だよ。走ってても気持ちいいじゃん」
意外だった。美輝が田舎好きだったなんて。
わたしはどうだろう? 田舎は好きだけれど、田舎か都会かなんて考えたこともない。
けれどこの旅館で結弦とふたり、旦那と女将なんていいかもしれない。
「あ、でもわたしも住めるかも、田舎」
「琴音、今結弦と一緒ならって思ったでしょ?」
見透かされていた。
「顔に出てるよ。結弦と旅館切り盛りできたらとか考えてたんでしょ。丸わかりだって」
そんなに顔に出てたのか。恥ずかしいな。
えへへと頭を掻いて美輝から顔を背ける。
「でも似合ってると思うよ、琴音は。ピアノを教える仲居さんとか、結構ありかもね」
ちょっとマニアックだけど、確かにいいかもしれない。照れながら、「そうかな?」と首を傾げると、美輝がふっと笑って立ち上がった。
「着付け待たせちゃったら悪いし、そろそろあがろっか」
美輝の言葉に「うん」と返して、わたし達は露天風呂からあがり、髪を乾かしてフロントへ向かった。