頭を抱えて悶えていると、結弦と怜が階段を下りてきた。
「あれ? 琴音なにしてんの?」
変なポーズで固まったわたしを見て、結弦がいつもの笑顔で言う。その爽やかさがなんだか憎たらしい。
「……なんでもない」
こんなところで、葵って誰よ! どこの女よ! なんて言うほど馬鹿じゃない。
そもそも別に結弦が浮気してるわけでもないし、ただわたしが得られなかった幼馴染みってポジションを妬んでいるだけだ。
みんなに背を向けて一足早く玄関で靴を履くと、結弦は少し慌てたようにお祖母さんに声をかけた。
「じゃあ行ってくるよ。一旦帰ってくるかもしれないけど、夕食はお祭りで食べるからね」
「はいはい、行ってらっしゃい。葵ちゃんによろしくねえ」
玄関を出て田舎道を歩き始めると、結弦が機嫌を伺うような態度で問いかけてきた。
「えっと、ばあちゃんからなにか聞いた?」
「うん、聞いたよ。結弦が昔好きだった女の子の話」
嘘だけど。でもきっと間違いない。さぁ、結弦はどう答えるの?
「えぇっ!? ばあちゃん、そんなこと言ったの?」
「なに焦ってるの? やっぱり好きだったの? その葵ちゃんって子のこと」
精一杯目を細めて結弦に視線を送る。小学校時代の幼馴染みに嫉妬するなんて、わたしってやっぱり子どもなのかもしれない。
「で、でも小学生のときの話だからさ。それにあの頃は携帯も持ってなかったし、引っ越し以来会ってないよ」
今から会えるかもしれないじゃない。嬉しいくせに、なんで隠そうとするのよ。