―― 二〇二九年 八月二十七日 月曜日 ――
低い雲が空を覆い、立ち並ぶオフィスビルのグレーがさらに無機質に染められた午後。
わたしは今日も盛大に怒鳴られていた。
「どんな見積もり出してんだ!」
「申し訳ありません」
「今更どうしようもねえし、お前謝罪して責任取ってこい!」
「わたしが……ひとりで、ですか?」
「そうだ! わたし、神谷琴音が全部悪いんです、すいませんでした! って土下座でもなんでもして撤回してこいよ! 馬鹿野郎!」
いつものように大雑把で滅茶苦茶な指示を受け、言われた通りすぐに依頼主がいる会社への道を急ぐ。
歩きだして五分ほどすると、頭上を黒い雲が覆い始めた。
天気予報は毎朝チェックしているけれど、今日は晴れマークしかなかったはずだ。
なのに間もなくして空がゴロゴロとうなったと同時に、大粒の雨が一斉にアスファルトを叩き始めた。