「で、どっちが結弦の彼女だい?」


 井関さんの急なひと言に、美輝がぷっと吹き出して返答する。


「この子でーす」

「へえ、結弦もこんなべっぴんさんに好いてもらって羨ましいねえ」

「ど、どうも」


 恥ずかしくて顔を上げることができないわたしを、美輝が横目で面白がって眺めているのがわかる。


「結弦は小さい頃から泣き虫でなあ。ま、頼りねえが大目に見てやってくれよ」


 違う。結弦は頼りなくなんてない。昨日もわたしの話を聞いてくれた。それに、いつもみんなをまとめてくれて、水泳部でもキャプテンを任されるくらい人望も厚いんだから。


「あの、頼りなくなんて……ないです」


 気づくとわたしは震える声でそれを伝えていた。美輝が嬉しさと驚きをごちゃ混ぜにしたような顔でわたしを見ているけれど、かまわずに続ける。


「結弦は優しくて、水泳部でもキャプテンでみんなに信頼されていて、男らしくてカッコイイです!」


 おぉーと小さく拍手をする美輝を見て、とても恥ずかしいことを口走っていたと自覚する。井関さんは、「へえっ」とどこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「いやあ青春だねえ! ごめんごめん。こんなに好いてもらってるなんて、あの幸せ者め! はっはっはっ!」


 美輝が「やるじゃん」と小声で言い、片肘でわたしを突っついた。


 結弦が頼りないと言われて、つい言い返してしまった。あぁ、もう、こんなのわたしらしくない……。


「なら、そっちの嬢ちゃんがもう片割れの彼女かい? あっちは結弦と違ってやんちゃそうだなあ」

「そうなんですよー。でも、バカだけど優しくて運動もできて、自慢の彼氏です!」


 す、すごい……。さすが美輝だ。


「そうかいそうかい、ふたりとも幸せそうでなによりだね」


 そう言いながら丁寧に魚を捌いている井関さんも、男らしくてとても魅力的な板前さんだなと思ったけれど、さすがにそれは口にはしなかった。