病院からの帰り道。夕日に照らされたわたしの影は、いつものように長く伸びている。
この影がいくつも重なると、週に一度の安らぎの時間は終わりを迎えて、暗い夜が訪れる。
ひとりで過ごす長い夜。
そしてまた夜が明けると、色のない一週間が始まる。
せめて星が瞬いていないかと夜空を見上げても、ビルだらけの都会の空は真っ黒でなにも見えない。
あの事故以来、わたしの中のなにかが少しずつ欠けていくのを感じていた。
七年前に世間を騒がせた七色ダム湖へのバス転落事故は、当時から社会問題となっていた高齢ドライバーによって引き起こされた事故だった。
カーブ直前でブレーキとアクセルを踏み間違え、カーブを曲がり切れずセンターラインを飛び出してきた乗用車。
それを避けたバスはその勢いでガードレールから飛び出し、崖下のダム湖へと転落した。
乗員乗客合わせて三十五名のうち、助かったのは割れた窓から投げ出されたわたしと結弦だけで、一緒にバスに乗っていた親友の巡里美輝と、その彼氏である時永怜を含めた三十三名が亡くなった。
乗用車を運転していた男性は無傷で、法に裁かれることもなかった。免許はそれを機に返納したが、今も元気に暮らしているらしい。
美輝と怜のお通夜には、マスコミと乗用車を運転していた男性も来ていた。
犠牲者の中でも若年であったわたし達への謝罪の念は、涙でぐしゃぐしゃになった顔や土下座を繰り返す姿から伝わることはあっても、それに目もくれず泣き続けている美輝の母親の姿を見ていると、早くここから去ってほしいという気持ちでいっぱいだった。
たったひとりの無自覚な悪意によって三十三名の命が奪われ、結弦の未来は閉ざされたのだ。
色鮮やかだったわたしの世界も黒い絵の具をキャンパスにひっくり返されたように、容易く色を奪われた。
みんながそれぞれ抱いていた夢。
それに向かって歩み始める決起会のような、楽しい旅になるはずだったのに……。
幼い頃から水泳を続けていた結弦は、将来は泳ぐ楽しさを子どもたちに伝えたいという夢を持っていた。
三歳の頃からピアノを続けていたわたしは音大への進学を考えていたし、陸上部の美輝は、将来スポーツ医療に関する職に就きたいと話してくれたことがあった。
結弦と同じ水泳部で活躍していた怜も、インターハイ出場が決まり校内を沸かせ、大学も推薦で行くのではないかと囁かれていた。
高校生なりのぼんやりとした夢だったけれど、みんなそれを叶えるために夢中になって日々を駆けていた。
恨みなんてない。
理不尽だ。
なにもしてあげられない。
夢を語り合うことも、誕生日を祝うことも、作ったお菓子を食べてもらうことも、くだらないおしゃべりで笑い合うことも……。
ひとりぼっちだ。
ただ、かなしくて、くやしい。