「ごめんね、美輝! わたしが事故に遭うとか言ってたくせに、無神経なこと言っちゃって」

「ううん、大丈夫。あれはほんとに琴音が言ってくれなかったら、どうなってたかわかんないよ。きっと琴音のおかげ。だから気にしないで。琴音はわたしらを守ってくれたんだよ」

「美輝……」


 いつもこうだ。美輝は決してわたしに弱いところを見せない。


「お菓子もなくなっちゃったし、そろそろ寝よ。その前に、もっかい歯磨きしなくちゃね」


 そう言うと美輝は素早く布団から起き上がり、洗面台へと向かっていった。

 すぐにそのあとを追いかけると、わたしは後ろから美輝をしっかりと掴まえる。


 美輝の体は小さく震えていた。


「急に……なに? 琴音。歯磨き……できないよ」


 その声も、なにかに怯えるように震えている。

 それにわたしは美輝の涙を見逃さなかった。明るく振る舞って起き上がったその瞬間、確かに一粒の雫が美輝の頬で光った。

 美輝はいつでも、こうしてわたしを守ってくれていた。臆病なわたしに、決して弱いところを見せないようにして。

 それはきっと、自分がつらい顔をすると、わたしが不安になるからだ。その優しさに、ずっと甘えてしまっていた。


 もうこのままじゃいけない。夢の中で、たくさん後悔したんだから。


「ごめんね、わたし強くなるから。美輝に守ってもらってばかりじゃなくて、美輝を守ってあげられるくらいに。美輝がわたしの前でも弱音を吐けるように、つらい時につらい顔を隠さなくてもいいように」


 涙を流そうとするわたしの涙腺を、今度はしっかりと支配する。ここで泣いちゃいけない。今わたしが泣くと、美輝が泣けなくなってしまう。
 美輝が安心して涙を流せるように、わたしは強くならなくちゃ。


「琴音……ありがとう」


 すすり泣くように呟く声に、わたしはぐっと涙を堪える。


「琴音は、わたしのために強くなろうとしてくれてるんだね。それだけでもう、充分だよ」


 美輝がゆっくりと振り返る。その瞳からは、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれている。


 いつも気丈に明るく振る舞っている美輝が泣いているところを見たのは、初めてだった。