午前中に一週間の出来事などを一方的に話して、お腹が空くと買っておいたおにぎりとお茶で昼食を摂る。
午後からは結弦の隣で文庫本を読んで過ごした。
それは、海の見える町で育った高校生の恋物語。
幼い頃に家族を事故で亡くした男の子に、自立を促し、自分がいなくてもしっかりと生きていけるようにと奮闘する彼女。
もう自分がいなくても大丈夫だと安堵した彼女は、ある日子どもを助けるため、海に飛び込んで亡くなってしまう。
彼女には未来が見えていた。自分の死の運命を知っていた彼女は、自分がいなくなっても彼がひとりで生きていけることを望み、残りの余生を過ごしていた。
それを知った男の子は、彼女の死を受け入れて、前を向いて歩き始める。
そこで物語は終わる。
物語の世界とはいえ家族だけでなく恋人にまで先立たれてしまったこの男の子は、この先どうやって生きていくのだろう?
わたしは結弦が生きていてくれるだけ、まだ幸せなのかもしれない。
会話ができなくても伝えることはできるし、こうして大人になった顔もずっと見ていられるのだから……。
褥瘡ができないようにと、看護師さんが何度か来ては結弦の体勢を変えてくれる。気づけば面会時間は目前まで迫っていた。
そろそろ帰らなきゃ、と思った頃に顔見知りの看護師さんに声をかけられ、少し談笑をしてから結弦に「またね」と告げると、わたしは病室をあとにした。