時間だけが無情にも過ぎていく。もうどれくらい経っただろう? 五分? 十分?


 いたたまれなくなり、偽りの気持ちをつい口にしてしまう。


「う、海辺だから冷えてきたよね。そろそろ帰ろっか」


 いやだ。ほんとはまだ帰りたくない。もっともっと、結弦と一緒にいたい。


「こうすれば寒くないよ」


 ――え?


 暗闇の中で、わたしは結弦の腕に包み込まれていた。


「ゆ……結弦? えっと、あの……」

「琴音、夢の中で頑張ったんだね」


 戸惑う心に、結弦のぬくもりと優しさが染み渡る。


「うん……ほんとに怖かった。夢でよかったって……思った」

「守ってあげられなくて、ごめん」


 本当に申しわけなさそうに囁く結弦を、励ますように口にした。


「でも、これからはこうして、結弦がわたしを守ってくれるんでしょ?」

「……うん、これからもずっと、俺が琴音を守っていきたい」


 とろけるような甘い言葉に、胸がとくんとやわらかな音を立てる。


「この先どんなことがあっても、この気持ちだけはずっと変わらないよ」

「……結弦」


 わたしもずっと変わらない。
 結弦が好き。痛いほど好き。今もこれからも、ずっとずっと大好き。


 未来とか予知とかどうでもいい。これがもしも夢だとしたら、夢のままでもかまわない。


 この瞬間、結弦がそばにいてくれる。その幸せは今ここにある。ただ、それだけでいい。


 夢の中で悲しみに流されて戻れなかった日々に、またこうして戻ってくることができたのだから。


 悲しみを乗り越えると、乗り越えた分だけ輝きが降り注ぐのかもしれない。
 それをきっと、誰もが奇跡と呼ぶのだろう。


 わたしの首筋に結弦が吐息を漏らすと、包み込む腕に力が込められていくのを感じる。


 強く抱きしめられるほどに、嬉しくてまた涙が溢れていく。わたしのこの気持ちは、決して色褪せることはないだろう。
 思わず泣いてしまうくらいに、わたしはきっと幸せなんだ。


 だからもう、わたしをひとりにしないでね。

 わたしを置いて、どこかに行ったりしないでね。

 これからもずっと、ずっと一緒にいてね。