「それなら、今のわたしは未来からきたのかもしれないよ」


 結弦がわたしを無条件に信じてくれたことが嬉しくて、泣き顔に笑顔を添えてついその話に乗っかった。


「未来から来たのに、どうして俺達と同じ年齢なのかな?」


 結弦は少し笑ってそう言った。


 それもそうだ。未来から来たのなら、わたしは未来の姿でなくちゃおかしい。そう考えると、わたしはやっぱり未来人ではなかったらしい。


「じゃあ予知夢ってやつかなあ。直前まで寝てたし。わたしってばエスパーさんなのかも」

「大した超能力者だね」


 結弦がふはっと吹き出して続けた。


「じゃあ、そんなエスパーさんに質問だ」

「なあに?」

「琴音は将来どうなっているの? 自慢の超能力で未来を見て、俺に教えてよ」


 結弦に励ましてもらってすっかり元気になったわたしは、「いいよ」と得意げに返して、テレビで観た超能力者と呼ばれる人達が念じるときにする仕草を真似てみせた。


「はい、見えたよ」


 じゃあ教えてあげるね、と付け足すと、わたしは未来のわたしを結弦に発表した。


「わたしは将来、ピアノの先生になっています」


 ――本当になれたらいいな。そのために、これからもっと頑張らないとね。


「それから結弦と結婚して、家庭を築いて幸せに暮らしています」


 ――そうなれたらどんなに幸せだろう。きっとわたしは、世界一の幸せ者だ。


「そして、おじいちゃんとおばあちゃんになっても、ふたりで仲よく手をつないでいます」


 ――最期のときまで、その手を離さずにいられるといいな。


「どう? これがわたしの未来だよ」


 ――未来を見たわけじゃないけれど。


「結弦……?」


 どうしたんだろう。結弦がなんにも答えてくれなくなっちゃった。
 顔を覗き込むと、うっすら涙を浮かべている。


「やだな、重かった? ごめんね。わたしそんなつもりじゃ……」


「いや、そうじゃなくて……」と口にする結弦の声は、とても弱々しくてどこか儚い。


 それからしばらく会話は途絶えてしまったけれど、結弦が困っているわけでも怒っているわけでもないことはわかっていた。


 結弦はそのどちらでもなく、不安そうな顔を隠していることにわたしは気づいていたから……。