「こわ、かった……」


 涙でかすれた声に、結弦が「うん……」と相槌を打つ。その声に少し安心して、わたしは話し続けた。


「美輝も怜もいなくなって、結弦が目を覚まさなくなって、わたしひとりになって……」

「うん……」

「ピアノも弾けなくなって、流されるまま毎日を過ごして、学校にも行けなくて……」

「うん……」

「なんとか入れた大学を卒業して、たまたま内定をもらった会社に就職したけど、毎日怒られて怒鳴られて……」

「うん……」

「生きてるだけで、怖かった」

「よく頑張ったね」

「誰にも相談できなくて、ただ結弦の寝顔を見つめてるだけだった。そのうちわたしは眠っている結弦に愚痴までこぼすようになって、本当にごめんなさい」

「ううん、目を覚まさない俺なんかのために、そばにいてくれてありがとう」


 嗚咽が混ざった声をなんとか絞り出して、夢の出来事を結弦に伝える。夢なのに、思い出すと本当に自分の人生だったような気がして怖かった。

 けれど、結弦に聞いてもらうだけで、心の中の黒いシミが少しずつ薄れていくのを感じる。


「目が覚めたとき、本当に事故に遭うかもって思うとすごく怖くなった。でも、みんなを助けなきゃって、そう思って……」

「だから、あんなに必死になってくれたんだね」


 優しい言葉が心を満たしていく。枯れかけた緑に、水が染みこんでいくみたいに……。