少し歩くとすぐに海岸に着いた。海は凪いでいて波も穏やかだ。

 砂浜に降りると端に岩場があり、丁度いい場所を見つけるとふたりで座って夜空を見上げた。

 夜の海が今にも降ってきそうな星空を纏っていて、その輝きにわたしはしばらく言葉を失った。

 星座はまったくわからないが、星に詳しい人はここからたくさんの星座を見つけて、神話を語ることができるのだろう。


 満天の星空を眺めながら、結弦がいつもの優しい声色で静かに話し始める。


「この空を、琴音に見せたかったんだ」

「えっと……ありがと」


 付き合ってもうすぐ二年になるのに、ふたりきりで優しくされるとわたしは今でも胸の高鳴りを覚える。


 気まずい沈黙が訪れる前に、結弦は続けて話してくれた。


「なあ……琴音」

「なに? 結弦」

「バスの中で、怖い夢見たんだろ?」


 昼間の記憶が甦る。忘れていたわけじゃないけれど、気にしないようにはしていた。


「あのね結弦……。今日、どうして信じてくれたの?」


 少しの不安を声に混ぜて訊ねる。

「なにが?」と返す結弦の視線は空へと向けられていたが、その眼差しは星よりもどこか遠い彼方を見つめているみたい。


「あのときわたし、変なこと言ったでしょ。バスが落ちるとか、みんなを脅かすようなこと」


 きっと周りから見ても不快だったに違いない。バスの乗客全員に死の宣告をしたようなものだ。


「琴音を信じるのに、理由なんていらないよ」


 彼方を見つめたまま、結弦は少し口角を上げてそう言ってくれた。けれど、


「でも、わたしが言ったような大事故にはならなかったよ」


 事故は起きた。でも湖に転落はしなかった。あれじゃまるで悪戯にみんなを脅かしただけだ。


「そうだね。確かにそんな大事故になってたら困るなあ」


 結弦は星空を眺めながら、くすっと笑って続けた。