浮きたつ足は軽快なステップを踏むように、無意識に前へ前へと歩みを進めていく。

 結弦の部屋の前に立ち、一応ノックをしてからスライド式の扉を開けた。


「結弦!」


 ようやく会えた。一週間は長い。


「先週は残業ばかりで夜もろくに会えなかったし、なんか久しぶりだね」


 ……返事はない。


「結弦はどうしてたの?」


 ……やはり返事はない。


「また、部屋から出てないんだね」


 …………。


「だめだよ、寝てばかりいちゃ」


 結弦はなにも応えずに、穏やかな顔で眠り続けている。


「ねえ、そろそろ起きてどこか行こうよ。体にカビ生えちゃってもしらないよ?」


 くすくす微笑みながら冗談を言っても、結弦はなにも応えない。
 

 七色(なないろ)ダム湖へのバス転落事故から、結弦はずっと眠り続けている。

 七年間ほとんど欠かさず続けてきた結弦との週末の時間は、いつもわたしが一方的に話すだけ。


 いつ目覚めてくれるのだろう? このままだとわたしは、世界にひとりも同然なのに。