急に寒くなったり、熱くなったりして苦しい。
身体に力が入らなくて、やっとの思いで重い瞼を開く。
どうやら、私は運がとても良いらしい。
誰かに溺れる寸前に助けられたらしい。

「ここはどこだろう。」

茶色い木製の天井、
天井から吊るされた火の代わりに光る赤い石が入っているランプの様な物、
自分が横になっている布団のおかげで少し柔らかいベット、毛布と枕。

少し右を向くと、ポトリと濡れた手拭いが落ちる。

「これは...」

自分の額に置いてあったであろう暖かい手拭いを手に取り、頭を上げる。
ベットの隣には木製の小さな机があり、その上に水が入った容器が置いてあった。
そして、その横には肩までの茜色の髪を後ろで結んだ少年が手を組んで座ったまま寝ていた。
歳は近そうだ。
同い年かもしれない。
幾つかかすり傷がある履き慣らされた焦げ茶色のロングブーツ、
茶色いズボン、焦げ茶のベルトには幾つか小さなポ-チが付けてある。
そして、涅色のシャツ。
シャツの第一ボタンと第二ボタンは止めて無く、袖のボタンも外されている。
きっと腕をめくってたのだろう。
この人が助けてくれたのだろうか?
ここは何処なのだろうか。
色々気になる事はあるが、起こしのは悪いから、起きるまで待つ。

「んん...」

彼は少し顔を顰める。
そろそろ起きるだろう。
寝返りを打とうとしたのだろうか。
彼はドサっと音を立てて派手に椅子から落ちた。

「痛たた...」

彼は打った頭を撫でながら金色の目を開ける。
最初は寝ぼけているのか、ただジッと見ていた。
2、3回瞬きをして目を擦り、どんどん目が大きくなっていき、
驚きを隠せないまま、口をパクパクさせて急に立ち上がる。

「ノア、起きたよ!」

彼は声を上げて“ノア”を呼びに急いで走って行った。
バタンと音を立ててドアが閉まる。
一人残されたダリアはポカンとしたまま、彼が去ったドアを見つめる。
そして、1分もしないうちに騒がしい足音が聞こえた。
足音からして、走って行ったのだろう。
ドアの前で足音が止まる。
でも、なかなかドアが開く気配は無い。
どうしたのかと心配し始めた時トントンとノックがされてドアが開く。
さっきの少年と藍色の短い髪と瑠璃色の目をした少年が入って来た。
彼も歳が近そうだ。
でも、茜色の髪の少年より、大人っぽくて冷静だ
彼は黒いブーツとズボンを履いている。
黒い長袖のシャツは第一ボタンまでちゃんとしめている。
きっと彼が“ノア”なのだろう。

「気分はどうだ?」

冷静な声で訊いてくるが、少し髪の毛が汗で濡れていて急いで来たのがわかる。
この人が助けてくれたのだろうか。

「はい、大丈夫です!
助けてくださり、ありがとうございました。」

二人は立っているのに、自分だけベッドの上に座っているのは居た堪れなくて、立ち上がろうとする。
が、熱の所為か目眩がして前のめりに倒れる。
でも、衝撃は無い。
恐る恐る目を開けると、目の前には黒いシャツが見えた。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、次の瞬間受け止めて貰ったのだと気付いて直ぐに離れる。

「ありがとうございます。」

お礼を行った直後ノアが少し叱る様な口調で

「全然大丈夫ではないじゃないか。
アレン、ちゃんと看病したのか?」

と茜色の髪の子に問う。
その少年の名前は“アレン”らしい。

「う、うん。
ちゃんと看病したよ。
途中まで...」

正直に答えるのは良い事だが、最後の一言は余計だった様だ。

「だから、交代しなくて大丈夫かと訊いたんだ。
なのに、一人で大丈夫と答えたのは何処のどいつだ?」

「だって...」

「言い訳無用!」

その仲の良い人ができる微笑ましい会話を眺めていると、それにノアが気づいた。

「見苦しい所を見せてすまない。
俺はこの無名コミュニティの団長を務めているノア・シーザーだ。」

「僕はアレン・リース。
よろしくね!」

「私の名前は遠藤ダリアです。
助けてくださりありがとうございました。」

自分も名乗ったが、二人は何故が黙ってしまう。

「遠藤...聞かない名前だな。」

「まぁ、別に良いんじゃない。
この国の全国民の名前を知ってるわけじゃないし。
一つくらい珍しいのがあっても。」

アレンはノアとは違い物事をあまり深く考えるタイプではなさそうだ。

「そうだな。」

ノアはアレンにそう言った後、ダリアを見て、
「何処から来たんだ?
何故あんな場所で溺れていたんだ?」
と少し探る様な口調で訊く。

「えっと...
日本から来ました。
あそこで溺れていたのは列車から跳び下りて、そこに落ちてしまったからで...」

何が言って大丈夫な事で、何が駄目なのか分からない。
だから、こんな歯切れの悪い説明になってしまった。

「日本...聞いた事ないな...
それは何処だ?」

「飛行機で6時間程飛んだ場所にある国です。」

「異国なのか?!」

何故か話せは話し程険しい空気になって行く。
そして、ノアの口調も厳しくなって行く。

「ノア、もっと優しく訊かないと。
ほら、怖がってるじゃん。」

「でも、身元や敵ではないかさえ分からないんだ。」

「それでも、この子が危害を加えるようには見えないけど...
それに拾って来たのはノアでしょ。」

アレンの発言にノアは黙り込む。

「まぁ、とりあえず今日はここまでにしておいたら?
病人を質問攻めにして怖がらせるなんて可哀想じゃん。」

アレンはダリアに苦笑いをして「ごめんね、驚かせちゃって」と謝る。

その謝罪に彼女は「いえ、大丈夫ですと答える。」

「少し寝てて、今、医者を呼んで来るから。」

と優しく言い、部屋を出て行く。
部屋には気まずい空気の二人が残された。