飛び降りると決めた後は早かった。
両手でドアノブを握り、自分の体重を掛けて硬いドアを開ける。
そして、出来るだけ体への衝撃を少なくする為に、出来るだけ草が多そうな雪の上を目掛けて跳ぶ。
衝撃を少なくするには速度を出来るだけ少なくする必要がある。
だから、列車が進んでる方向の真逆に跳ばなければならない。
そうする事で、列車の速度から自分の速度がマイナスされるのだ。

「きゃあぁ!
やっぱりこれ全然良い案じゃない!」

自分の速度と列車の速度ではやはり差がありすぎる。
今、足を伸ばして着地しようとすれば、絶対に骨折するだろう。
今、手元には着替えなどが入ったリュックしかない。
だから、リュックを下敷きにして、それの上に座り、着地する。
幸い骨折も打撲もしなかったが、リュックがソリの役割を成し、そのまま雪の上を滑る。

「お願いだから、止まって。
このままじゃ、」

言い終える前に、危惧していた事が起こった。
氷に覆われた川に突っ込んだのだ。
小さくバリンと音を立てて、ヒビは瞬時に広がり、彼女は川の中に落ちる。
-2度や-3度近くの一瞬で凍える水に包まれる。
本来は泳げるはずなのに、寒さの所為で手足が言う事をきかない。
こんな所で死んでしまうのだろうか?
この歳で死んでしまうのだろうか?
そんなの嫌だ!
もっと友達と遊びたいし、
楽しい学校生活も送りたい、
もっと家族と楽しい思い出も作りたいし、
恋だって一回くらいしてみたい。
まだ死にたくない!

やっとの思いで、顔を水中から上げる事が出来た。

「誰か助けて!」

こんな場所に人がいるわけないのは頭では分かっていた。
でも、叫ばずにはいられなかった。

「誰か…!」

でも、2度目は言い終える前に沈んでしまい途切れた。
先程ので、体力をほぼ使い果たしたのか、もう何も出来ない。
ただ冷たい川の底に沈んで行くだけだ。
息を止めるのにも疲れて、息を吐いてしまった。
だんだんと瞼が重くなっていき、意識が遠のいていく。
意識が朦朧とする中、誰かに掴まれた気がした。