暗いトンネルを抜ると、窓硝子の外には日光を反射して、宝石の様に輝く凍った湖とふわふわの綿飴の様な真っ白な雪に包まれた木々が湖の周りに立っている。
耳を澄ませば、鳥の囀りも聞こえてくる。
一言で言えば、お伽話の中にいる気分にさせられる美しい景色が広がっていた。

「わぁ、綺麗〜」

ハ-フアップの薄茶色の髪の少女は涅色の目を輝かせ、もしそこに硝子が無かったら、身を乗り出す勢いで窓に手をつきながら眺める。

「こんな素敵な景色を見られるなんて…
お祖母ちゃんに感謝しなくちゃ。」

少女が一人でこんな場所にいるのには理由がある。
彼女、遠藤ダリアは誕生日プレゼントに祖母から2週間のヨーロッパ旅行を企画して貰ったのだ。
そして、今は丁度高校2年生になる前の春休みだ。
まだ、日本を出て3日だが、もうこんな神秘的な風景を見られた。
きっと、クラスで一番充実した春休みとなるだろう。

「コホン。」

「す、すみません。」

流石に騒ぎ過ぎたようで、近くの席の人達は迷惑そうにダリアを見ている。
彼女はその風景を写真に収めてから大人しく座る。
列車の中はシンプルだ。
車両の前後に手動の出口がある。
席は2-3人が座れる皮のベンチの様な作りで、手すりは通行側の方に一つある。
そのベンチが向かい合うように置いてある。
席を立つと車両の中が見渡せる。

「後、どれくらいで着くのかな。」

もう、3時間は経っている。
だから、後1時間半くらいで着くだろう。
長い旅路の所為で殆どの人達は疲れており、寝ている人も少ない。

「私も少し仮眠をとろうかな。」

そう思い、目を閉じようとした瞬間、隣の車両が騒がしい気がした。
ダリアは目を凝らして、二枚のドアの窓越しに見る。
そこには顔を被り物で怪しい人達が怒鳴っているようだ。
おじさんが怒鳴り返すと、彼らは刃物と銃を彼に向けて、脅している。
ただ事で無いのは確かだ。
でも、周りにいる人達にはそれが聞こえ無いのか、無反応だ。

「あの、すみません。
隣の車両でトラブルが発生したみたいなんですけど。」

「うるさい!こっちは疲れてんだ。
少し静かにしておくれ。」

何を言っても聞こうとしない。
どうしようかと数分考えた後、駅員に報告する事にした。
最初と最後の車両に駅員が乗っている。
幸い、この車両は後ろから3番目の車両だ。

「すみません、出ます。」

隣の席の人に通してもらう。
騒ぎが無い方の、最終車両に近い方の車両に行く。
この車両を出ると次の車両までの空間がある。
そこは4人で立つのがやっとの外に出るドアしか無い小さな空間だ。

何故か胸騒ぎがする。
だから、ドアを開ける前に、そっと窓から車両の中を見る。

「ひっ!」

その車両にも被り物をして銃を持った人達がいた。
そして、その1人と目があったのだ。
確実に気づかれた。
逃げなくてはいけない。
でも、どこに?
挟み打ちだ。
ふと、ドアの方に目がいく。
普段はこんな狂った考え浮かばない。
でも、非常事態だった所為か、この時はまともな思考じゃなかった。

「飛び降りよう。」

だから、これが名案に思えたのだ。