満員電車の中、ポケットからハンカチを取り出し、額を拭う。
 
 焦った。非常に焦った。まさかここまで彩音が来るとは思ってもみなかった。空気を読むのがうまい子だ。僕が知る限り、波風を立てるような行動をしたことは一度たりともない。
 
 真澄のご機嫌を伺うつもりまではないが、それでもやはりわざわざ作ってくれた弁当を他人が食べたことは知られたくなかった。申し訳ない気持ちで胸が一杯になる。
 
 時間が経過し、少しずつ落ち着いてくると違和感だけが残った。