一度持ち帰ることにした。明日の朝、渡せばいい。
　
「お先に失礼します」

　誰にともなく、部屋全体に向かって挨拶をする。鞄と私の体に挟まるように弁当袋を持ち、職場を後にした。
　
　電車に揺られている間に、私は一つの奇襲を思いついていた。ただ職場の近くで本田に弁当袋を渡すのではなく、彼女の前で渡したらどういう化学反応が起こるだろう。
　
　毎日一生懸命気持ちを込めて弁当を作っているに違いない。それを他の女に食べられたとあれば、いい気分がするはずない。