グレーのスーツに、紺のビジネスコート、黒のビジネスシューズに鞄。これがオーソドックスな僕の出で立ちだ。ただし今は右手にピンクの弁当袋が持っている。それもキルト生地でストラップの柄がついているものだ。
 
 正直、恥ずかしい。スーツ姿にピンクの色が混じれば否が応でも目につくからだ。
 
 せめて――新婚さんに見えてほしい。若奥さんがやたら可愛いもの好きで持たされてるとか思ってくれるとありがたい。でも、そんなに世の中甘くない。過保護な母親に弁当を作ってもらってるマザコン息子に見られている可能性も排除できない。