やがてテーブルに、ふたりぶんのごはんと、お魚と、きんぴらの小鉢と、たまご焼きが並んだ。
 食器棚は共用だけど、それぞれのスペースは百均のブックエンドで区切ってある。まあ、区切りがなくても、もうどの食器が誰のものか、それぞれみんな把握しているのだけれど。
 私はお味噌汁をよそった。厚揚げと大根のお味噌汁。青い小ねぎが散らしてある。

「食べましょう」
「ありがとう折原くん。すっごく、おいしそう」
「いただきます」
「いただきます」
 あたたかな湯気のたつごはんに、つくってくれた折原くんにありったけの感謝をこめて。

 私はまず、たまご焼きに箸をつけた。
 あざやかな黄色がまぶしい。すごく綺麗に巻いてある。きっと絶妙な火加減で焼いたんだろうと思う。私なんて、何度つくっても焦がしちゃうのに。
 そっと口に運べば、ふんわりとやわらかく、ひと嚙みすると、じゅわっと、たまごとお出汁の風味が滲みだすように広がった。
 すごく好みの味。たまご焼きというより、だし巻きたまごに近いのかも。
 私はたまご焼きは塩味が好きなのだけど、折原くんのは、しょっぱすぎず、ほんとうにちょうどいい加減だ。
「おいしい。あのね、私の実家の味と、似てる。折原くんののほうが何倍もおいしいけど」
「どうもありがとうございます。たまごやきは、いちばん、その家の味が出るんで」
「折原くんちは、定食屋さんなんだよね?」
 はい、と彼はうなずいた。

 春、進学と同時にここに入居した折原くんは、私たちが開いた歓迎パーティのお礼にと、ルームメイト全員にごはんをつくってくれたことがあった。
 お店で何十年も料理をしているお父様直伝の味。まだ親父の足元にも及びませんと折原くんは謙遜したけど。まるでふるさとに帰ったときのような、ほっこりと安らげる味で、こんなお店があったら、毎日だって通っちゃうかもしれない。