「竹浦先生、お願いします」
「はいはい」

カーテンで仕切られた救命の処置スペース。
患者はベットの上で眠っていた。

「やっと静かになったね」
「ええ、薬が効いたみたいです」
「まあ、アルコールもかなり飲んでいたから」
「そうですね」

縫合する間中騒がれては困ると思い、投薬の指示をしておいたからしばらくは起きないと思う。

「やってしまおうか?」
「はい」

今までも何度か一緒に仕事をしたことはあったけれど、やっぱり彼女はできるナースだ。
こちらが言わなくても次の行動を読んでくれるし、今何をすべきかがよくわかっている。
まだ若そうなのになあ。

「杉本さんは何年目なの?」
「え?」
突然仕事以外のことを聞かれ、動揺している。
「いや、随分優秀だなあと思って」
「はぁ、ありがとうございます。3年目です」
「へー、じゃあ25歳?」
「いえ、27歳です」
「ふーん」
ヤベ、なにげに年齢を聞き出してしまった。

「2年間、遊んでたんです」
「え?」
きっと嘘だな。
彼女の性格からして、2年も遊んで過ごせるようには見えない。
何か事情があったって事か。

「でもさあ、3年目にしては」
「すみません、態度がでかくて」
かぶせ気味に話す彼女。
「そんなこと言ってないだろう。・・・怒った?」
「いいえ」
いや、絶対に怒ってる。

「あの後、大丈夫だった?」
「え?」
ギロッと睨まれた。
「純粋に心配しているんだよ。随分飲んでたから、2日酔いで大変だったんじゃないかなあってね」
「・・・」
「やっぱり怒ってる?」
「いいえ。でも・・・一生の不覚です。忘れてください」
悔しそうに唇を噛む。
「いいじゃない。長く生きていれば色んな事があるよ」
「すみませんね。若くなくて」
「随分ひがんでるんだな」
「・・・」

彼女の不器用さも、強がる態度も、なぜかかわいいと思えた。
今まで俺の周りにはいないタイプの女性で、興味がわいた。

「杉浦先生、後はやっておきますので」
まるで俺を追い出したいかのように、片付けを始める。
「じゃあ、お願いします」
無理強いはせず、処置室を後にした。

でも、君はわかってない。
俺は意外と執念深いんだ。