目が覚めると、アパートのベットに眠っていた。

うぅーん、頭が痛い。

あれ?私どうやって帰ってきたんだろう。
えっと、
バーでカクテルを飲んで、迎えを呼んだらって言われて、大樹先生に電話を
あー。
もしかして・・・
恐る恐る後ろを振り返る。

マズーイ。

そこには大樹先生が・・・いる。

「起きたのか?」
「は、はい」
恥ずかしくて直視できない。

「呼んだのはお前だからな」
「え、ええーと」
確か電話は切ったはずでは、
「好きな女から着信があれば普通かけ直すだろうが」
はー、確かに。
って、好きな女?
「いきなりマスターが電話に出て驚いたぞ」
「すみません」
「大体、何で記憶がなくなるまで飲むんだよ」
もう、大樹先生には恥ずかしいところばかり見せている。

「で、結衣ちゃんは?」
どうやらアパートに結衣がいないのが気になるらしい。
「昨日は父親の実家に泊まりに行ったの。月に1度の約束だから」
「へー、どんな人?」
「え?」
「結衣ちゃんのお父さん」
「えーっと、高校時代の先輩で普通の商社マン」
「好きだったんだよな」
どこか探るように聞く。
「大樹先生、誤解しないで。彼は結衣の父親だけど認知もしてないし、結婚を考えられる相手ではなかったの。初恋の人には違いないけれど、それだけ。結衣が泊まりに行くのも彼の両親の立っての希望。もちろん、私が結婚するまでって約束だけど」
「ふーん」
まるで興味がない風に返事をして、大樹先生はベットを出て行った。

私もパジャマのまま後を追う。


「朝食、何か作りましょうか?」
「TKGでいいよ」
また?
「作りますよ。いっつも玉子かけご飯じゃあ申し訳ないし」
「いいよ。桃子と一緒に食べられるだけでいい」
え?
「何かあったの?」
大樹先生の声があまりにも弱々しくて、気になった。

「桃子」
絞り出すように言い、そっと私を抱きしめると肩に顔を埋めた。
「先生?」
どうしたの?
いつもの大樹先生じゃない。

「少しだけこうしていたい」
「ええ、どうぞ」
私は大樹先生の背中に手を回しギュッと抱きしめた。

「桃子、お願いだから側にいてくれ。1人にしないでくれ」
大樹先生の肩が震えている。

きっと、色んな苦労があるんだろうと思う。
樹里亜先生は失踪したままで無責任な噂が飛び交っているし、院長夫人もあまり丈夫な方ではないと聞いている。
長男として、妹のことも、両親のことも、病院のことも1人で背負う気なんだ。

「情けないだろう。こんな弱音を吐く男なんて」
「そんなことない。大樹先生は立派です。でも、頑張りすぎ」
「へへへ、そんなこと言うのは桃子だけだよ。桃子が一緒にいてくれれば俺はもっと頑張れるんだけれどな」
「大樹先生?」
「そろそろ先生はやめてくれない?」
「えっと・・・大樹さん」
「そう、良くできました」


ご飯を炊き、味噌汁を作り、2人でTKGを食べた。
今まで食べたどんな食事よりも美味しかった。

幸せそうにご飯をかき込む大樹さんを見ながら、何か吹っ切れた気がしていた。

「大樹さん、私覚悟を決めました。結衣を言い訳にして逃げるのはもうやめる。ちゃんとあなたと向き合います」
「どうしたの?この間までかたくなに拒絶していたのに」
まあ、そう思われても仕方がない。
「この2ヶ月、正直寂しかった。自分で断ったのはわかっていても大樹さんからの連絡がなくて、すごく寂しかった。それで気づいたの。私、大樹さんが大好きだって」
「ふーん。俺の放置プレーも間違っていなかったわけだ」
放置プレーって。
「わざとだったの?」
「半分ね。半分は樹里亜のゴタゴタでそれどころではなかった。でも、これだけ放っておいても振り向いてくれないなら諦めた方がいいかなとも思っていた」
じゃあ、私は振られる寸前だったんだ。
「ただし、昨日の電話をもらったときに、どんなことをしてでも手に入れるって思い直した」
はあー。

「桃子」
箸を置き、真っ直ぐに私を見た大樹。
「僕と家族になってくれませんか?」
「え、えっと・・・」
これってプロポーズよね。
こんなにいきなりくる物だっけ。

「桃子?」
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

杉本桃子27歳、9歳の娘結衣と共に竹浦大樹さんと家族になることを決心しました。
これから先たくさんの困難があるだろうけれど、一緒に乗り越えていきます。