アパートを出て駅前に向かった。
コンビニや駅前広場、ドラッグストアなど、今まで結衣ちゃんを見かけた場所を探し歩く。

本当は結衣ちゃんよりもパニック状態の彼女の方が心配なんだが、結衣ちゃんを探さないことには何も始まらない。

探せば、きっと結衣ちゃんは見つかるだろう。
問題はその後のような気がする。
今回のことは、今まで結衣ちゃんと2人で生きてきた彼女にとって人生ひっくり返されるような衝撃のはず。
もしかしたら裏切られた気がするかもしれないし、2人の仲がこじれてしまう可能性だって十分ある。

実際、俺の家も微妙なバランスで成り立っている。
俺の妹2人のうち4つ下の樹里亜(じゅりあ)は父さんがアメリが留学中に引き取った養女で、父さんとも母さんとも血がつながっていない。
今はうちの病院で救命医として働いているが、小さい頃からいつも一歩引いてしまうようなおとなしい子だった。
養女とは言え、竹浦を名乗る娘に違いはないんだから堂々としていればいいのにと思うけれど、いつも逃げ腰で両親に距離を置いているようなところがある。両親もまた、そんな樹里亜にどこか気を使っている。
もう1人、8つ下の梨華は超問題児。
中学生の頃から無断外泊の常連で自由人。いつも父さんや俺に叱られていた。
それでもなんとかこの春大学を卒業し、今は父さんの秘書をしている。
正直、両親も梨華には随分手を焼いてきた。
その苦労を見ていた俺は、梨華のことを憎らしく思ったことさえある。
「父さんや母さんがこんなに苦労しているのに、何でお前はいつもそうなんだ」と、何度もしかり飛ばした。
しかし最近になって、梨華は寂しかったんだと気づいた。
端から見れば樹里亜はかわいそうな子で、みんな腫れ物に触るように扱う。
両親でさえ、樹里亜には気を遣っていたから。
梨華はきっと、両親に甘えたかっただけなんだ。

自分の家族を見ているだけでも、子育てとか、親になるって事は大変なことだと思う。一緒に育ってきた人間にさえそう思うのに、俺にステップファーザーなんてできるのか?
叱るときの加減を間違えただけで、すぐに関係が壊れてしまいそうだし。

「大樹先生」
「あ、希良々ちゃん」
その後ろに、結衣ちゃんの姿も見える。
良かった、見つけた。

「どうしたんですか?」
「結衣ちゃんを探してたんだ」
「えっ、私?」
「うん。お母さんが帰ってるから、家に帰ろう」
「嘘。今日は夜勤のはずじゃあ」
「変更になって帰ってきてる」

ピタリと、結衣ちゃんの足が止まった。

「結衣ちゃん?」
「帰りたく、ありません」
えっ。
「それは・・・」
困ったな。