「本当は結衣ちゃんに自分で話してもらいたかったんだけれど」
大樹先生は一瞬天を仰ぎ、あきらめたように私を見た。

「何ですか?はっきり言ってください」
「うん。僕が結衣ちゃんに始めてあったのは1ヶ月半ほど前。駅前のコンビニの近くで、夜の11時頃だった」
「えー。11時?」
「そう。僕が診ている患者の娘さんと2人でいるところに声をかけたんだ」
「何で、そんな時間まで結衣は・・・」
「1人が寂しくて、近くのコンビニや24時間のドラッグストアに行ってるうちに友達になったらしい」
「そんな・・・」
「別に何か悪いことをしていたわけでもないけれど、さすがに時間が時間だから少し話をしてアパートの前まで送ったんだ。その後も、何度か街で見かけて声をかけた。何度目かに会ったとき、名前とお母さんの勤務先を聞かされて、君の娘だって知った」
「どうしてその時に言ってくれなかったんですか?」
「もちろん近いうちに話すつもりだった。でも、できれば結衣ちゃんの口から話してもらいたかった」

何度か会って、結衣ちゃんがいい子なのはよくわかっている。
ただ寂しくて出かけているだけなのも知っている。
ママが大好きで心配をかけたくないと思った結衣ちゃんの気持ちを彼女にわかって欲しかった。

「私って、母親失格ですね」
目に涙をため、ギリッと奥歯を噛む音。
「そんなことはない。ちょっと頑張りすぎなところはあるけれど、君はいいお母さんだ。結衣ちゃんはいい子に育っているよ。自信を持ちなさい」

う、うぅぅー。
堰を切ったように、彼女が声を上げて泣き出した。
そっと肩を抱きながら、こんな事しかしてやれない自分がもどかしい。

俺はキッチンに向かい、置いてあったカップでコーヒーを入れた。

「勝手にコーヒーを入れたよ。インスタントだけど、温かい飲み物は気持ちが落ち着くと思うから」
そう言って、彼女にカップを握らせた。

「俺は結衣ちゃんを探しに行くから、君はここで待っていなさい。もしかしたら結衣ちゃんが帰ってくるかもしれないからね」
「でも・・・」
「結衣ちゃんが帰ってきたら、ちゃんと話を聞いてあげること。いい?」
コクンと頷いた彼女。

「じゃあ行ってくるから」と、俺はアパートを後にした。