5分と待たず、大樹先生はやって来た。

「ごめん、お待たせ」
「いえ」

「行こうか?」
「でも・・・」
私の足は止まったまま。

「ここじゃあ人目につくし、とりあえず乗って。どうしても嫌なら送るだけで帰るから」
そんなこと言われても。
決して無理強いはしないのが大樹先生らしいんだけれど、一体何なのよ。
「気に入らない?」
「いえ」
職員駐車場で長く立ち話をしていれば又噂を広げられてしまう。
ここはおとなしく車に乗るしかなさそう。


車に乗って家に向かいながら、真っ直ぐ前を見る大樹先生の横顔を見つめた。

「話って何ですか?」
「結衣ちゃんのこと」
「結衣?」
「うん」
何で大樹先生が結衣のことを知っているの?
「先生、私の事調べました?」
「はあ?」
怒ったようにチラリとこちらを見る。
「だって、娘がいるとしか言ってないのに」
「ああ」
困ったなって顔。

「実は結衣ちゃんを知ってるんだ」
「はあ?」
今度は私が驚く番。
どうして?
「何で結衣を知っているんですか?」
「たまたま、本当にたまたま知り合って、何度か話したことがあるんだ」
「そんなあ・・」
私には何も言ってなかったし、知らない人についていくような子じゃないはずなのに。

「話したいことは色々あるけれど、とにかく帰ろう。結衣ちゃんも交えて3人できちんと話すべきだと思うから」
これ以上、大樹先生は話す気がないらしい。
きっと私の知らない事実もあるんだろうし、結衣に関わりもあるようだから家に帰ってからきちんと聞くしかない。